カタログに大きく書いてある燃費の数字は、3つの走り方を混ぜた平均値です。そして子育て世代の運転は、その3つのうち1つに偏っています。
保育園の送迎、スーパー、小児科、習い事。信号と渋滞の多い短距離——これがWLTCモードでいう「市街地モード」にあたります。カタログの総合値ではなく、この数字を見たほうが実感に近くなります。
そして市街地モードで並べ直すと、順位が入れ替わる車があります。フリードのガソリン車はカタログ値から4.4km/L落ち、RAV4は3.9km/L落ちる一方で、ライズは1.6km/L上がります。
WLTCモードは、3つの走り方の合成値
いまのカタログに載っている燃費はWLTCモードという国際基準で測られたものです。国土交通省の審査値なので、メーカーが違っても同じ条件で測られています。
このWLTCモードは、3つの走行パターンから成り立っています。
市街地モードは、信号や渋滞の影響を受ける比較的低速な走行を想定しています。停止と発進を繰り返す走り方です。
郊外モードは、信号や渋滞の影響をあまり受けない走行を想定しています。一定の速度で流れる道です。
高速道路モードは、その名のとおり高速道路での走行を想定しています。
カタログに大きく出ている数字は、この3つを時間配分で平均したものです。つまり「高速道路をそこそこ走る人」を想定した数字であって、送迎ばかりの家庭の使い方とはずれます。
子育て世代の運転は、市街地モードに寄っている
1日の走行を思い浮かべてください。
朝、保育園まで3km。そこから職場まで5km。夕方に迎えに行って、スーパーに寄って帰る。週末は公園や実家。ほとんどが片道10km未満の、信号のある道です。
この使い方は市街地モードそのものです。エンジンが暖まりきる前に目的地に着くような短距離が多く、燃費にとってはもっとも厳しい条件になります。
もちろん帰省や旅行で高速道路を走ることもありますが、年に数回の走り方より、毎週繰り返す走り方のほうが燃料代への影響は大きくなります。
だから見るべきは、カタログの総合値ではなく市街地モードです。この数字は諸元表に必ず載っています。総合値のすぐ下に、3つのモードが並べて書かれています。
15車種の市街地モード燃費
トヨタ・日産・ホンダが公開している主要諸元表から、総合値と市街地モードを抜き出したものです。市街地モードの高い順に並べています。
| 車種 | 市街地モード | カタログ総合値との差 |
|---|---|---|
| トヨタ ヤリス | 35.8km/L | 総合35.4から+0.4 |
| トヨタ アクア | 33.1km/L | 総合33.6から−0.5 |
| トヨタ ライズ | 29.6km/L | 総合28.0から+1.6 |
| 日産 ノート | 28.3km/L | 総合28.4から−0.1 |
| トヨタ ヤリスクロス | 27.9km/L | 総合26.8から+1.1 |
| トヨタ シエンタ | 27.4km/L | 総合27.6から−0.2 |
| トヨタ カローラ | 25.8km/L | 総合27.3から−1.5 |
| トヨタ ノア/ヴォクシー | 23.6km/L | 総合23.4から+0.2 |
| ホンダ フリード(e:HEV) | 25.9km/L | 総合25.6から+0.3 |
| ホンダ ステップワゴン(e:HEV) | 19.5km/L | 総合19.8から−0.3 |
| トヨタ プリウス | 23.4km/L | 総合25.9から−2.5 |
| 日産 セレナ(e-POWER) | 21.3km/L | 総合20.3から+1.0 |
| トヨタ ハリアー | 20.8km/L | 総合22.4から−1.6 |
| トヨタ RAV4 | 18.3km/L | 総合22.2から−3.9 |
| 日産 セレナ(ガソリン) | 9.5km/L | 総合13.0から−3.5 |
| ホンダ ステップワゴン(ガソリン) | 9.5km/L | 総合13.2から−3.7 |
| ホンダ フリード(ガソリン) | 12.1km/L | 総合16.5から−4.4 |
各車ともハイブリッド車(セレナはe-POWERとガソリンの両方)の代表的なグレードの数値です。グレードや駆動方式によって変わるため、購入するグレードの数値でご確認ください。
新車の納期が長いなら、登録済み未使用車という手もあります。
非公開の在庫を含めて、希望の条件で探してもらえます。
市街地に強い車と、弱い車がある
表の右端を見てください。プラスの車とマイナスの車に分かれています。
市街地のほうが良い車——ライズ(+1.6)、ヤリスクロス(+1.1)、セレナe-POWER(+1.0)、ヤリス(+0.4)、ノア/ヴォクシー(+0.2)。
市街地で落ちる車——フリードのガソリン車(−4.4)、RAV4(−3.9)、ステップワゴンのガソリン車(−3.7)、セレナのガソリン車(−3.5)、プリウス(−2.5)。
ここで注目したいのは、カタログ値の順位と市街地モードの順位が一致しないことです。たとえばプリウス(総合25.9)とヤリスクロス(総合26.8)はカタログ上で0.9km/Lの差ですが、市街地モードでは23.4と27.9で、差が4.5km/Lに開きます。
送迎中心の使い方なら、後者のほうが実際の燃料代は安く済む計算になります。
同じセレナで、ガソリンとe-POWERが逆転する
いちばん分かりやすいのがセレナです。同じ車種のなかで、パワートレインによって正反対の傾向が出ています。
ガソリン車は総合13.0km/Lに対し、市街地モードは9.5km/L。3.5km/L落ちます。逆に高速道路モードは14.9km/Lで、総合値より上です。つまりガソリンのセレナは、高速を走るほど有利になる車です。
e-POWERは総合20.3km/Lに対し、市街地モードは21.3km/L。1.0km/L上がります。一方で高速道路モードは18.1km/Lと、総合値より下がります。
両者の差は総合値で7.3km/Lですが、市街地モードでは11.8km/Lに広がります。送迎中心の家庭にとって、この差は毎月の燃料代にそのまま出ます。
「ハイブリッドは高いから元が取れない」という話をよく聞きますが、それは走り方によります。市街地中心なら差は大きく、高速中心なら差は縮みます。セレナのレビューでも、この使い分けに触れています。
なぜハイブリッドは市街地に強いのか
理由は2つあります。
ひとつは減速時のエネルギーを回収できることです。信号で止まるたびに、ブレーキで捨てていたエネルギーを電気として貯められます。停止と発進が多い市街地ほど、この回収の機会が増えます。
もうひとつは低速域でモーターを使えることです。ガソリンエンジンは低い回転数での効率が悪く、発進のたびに燃料を多く使います。ここをモーターが担当すれば、その無駄が減ります。
逆に高速道路では、エンジンが効率のいい回転域で回り続けるため、ハイブリッドの利点が小さくなります。バッテリーとモーターのぶん重くなっていることが、むしろ不利に働く場面もあります。
セレナのe-POWERで高速道路モードが総合値を下回るのは、この構造によるものです。
なぜ大きいSUVは市街地で落ちるのか
RAV4の−3.9km/Lは、今回の15車種でフリードのガソリン車(−4.4km/L)に次ぐ落ち込みでした。ハリアーも−1.6km/Lです。
主な理由は重さです。RAV4の車両重量は1,980〜1,990kg。停止から動き出すたびに、この重さを加速させる必要があります。市街地は発進の回数が多いので、重さの不利がそのまま積み重なります。
空気抵抗と転がり抵抗も効きます。SUVは車高が高く前面の面積が大きいうえ、太いタイヤを履いています。ただしこれは高速域でより効くので、市街地での落ち込みは重さの影響が中心です。
車両重量が燃費に効く仕組みは、車両重量は0.5t刻みで維持費が変わるでも触れています。重さは重量税と燃費の両方に効いてくるので、維持費を考えるうえでは重要な数値です。
郊外モードと高速道路モードを見るべき家庭もある
すべての家庭が市街地モードを見ればいいわけではありません。
郊外にお住まいで、信号の少ない道を毎日走るなら、郊外モードのほうが実感に近くなります。今回の12車種でも、郊外モードは総合値より高い車がほとんどでした。
高速道路を頻繁に使うなら、高速道路モードを見てください。帰省が長距離、通勤が高速、といった使い方です。この場合、ガソリン車とハイブリッドの差は表よりも小さくなります。
大事なのは自分の走り方に近いモードで比べることです。3つのモードはどれも同じ諸元表に載っているので、見るのに手間はかかりません。
年間の燃料代を計算してみる
km/Lの差が実際いくらになるのか、計算してみます。
条件を置きます。年間走行距離8,000km、レギュラーガソリン175円/Lとしましょう。送迎と買い物が中心で、年に数回帰省する家庭を想定した距離です。
市街地モードの数値で計算すると、こうなります。
ヤリス(35.8km/L)——8,000km ÷ 35.8 = 約224L。年間で約39,000円。
ノア/ヴォクシー(23.6km/L)——約339L。年間で約59,000円。
セレナe-POWER(21.3km/L)——約376L。年間で約66,000円。
RAV4(18.3km/L)——約437L。年間で約77,000円。
セレナのガソリン車(9.5km/L)——約842L。年間で約147,000円。
ここで注目してほしいのが、同じセレナでガソリンとe-POWERの差が年間約8万円になることです。5年乗れば40万円、7年なら57万円。車両価格の差がこの範囲に収まるなら、市街地中心の使い方では十分に見合う計算になります。
逆にヤリスとノアの差は年間2万円です。コンパクトとミニバンで悩んでいるなら、燃料代の差だけで決める話ではないということも分かります。定員や積載量のほうが判断材料として大きくなります。
ガソリン価格は変動するので、この計算はあくまで比較のためのものです。自分の年間走行距離を入れて計算し直してみてください。走行距離が短いほど、燃費の差は小さくなります。
中古で見るときは、燃費の表記が2種類あることに注意
中古車を検討している場合、年式によってカタログの燃費表記が違います。
いまのWLTCモードが表示されるようになったのは2018年前後からで、それ以前はJC08モードという別の基準で測られていました。さらに古い車では10・15モードという表記もあります。
問題は、これらの数値をそのまま比べられないことです。JC08モードのほうが実際の使用状況より良い数値が出る傾向にあり、同じ車をWLTCで測り直すと数値が下がります。
つまり「2016年式のこの車はJC08で30km/L、2023年式のあの車はWLTCで25km/L」と並べても、前者のほうが燃費がいいという結論にはなりません。測り方が違うからです。
中古で年式をまたいで比べたい場合は、同じ基準の数値を探すか、実燃費の情報を別途当たる必要があります。カタログ値だけで判断すると、古い車を過大評価することになります。
WLTCモードには、この記事で見てきたとおり市街地・郊外・高速道路の内訳があります。内訳が載っているならWLTC、総合値しかないならJC08以前という見分け方もできます。
燃費だけで年間コストは決まらない
最後に、燃費の数字に振り回されないための注意点も書いておきます。
ハイブリッドは車両価格が高くなります。同じ車種でガソリンとの差額が数十万円になることもあり、燃料代の差でこれを埋めるには相応の距離を走る必要があります。年間の走行距離が短い家庭ほど、元を取るまでの期間が長くなります。
使う燃料の種類も違います。ハイオク指定の車はレギュラーより単価が高いので、燃費が良くても燃料代が下がるとは限りません。
タイヤ代も効きます。大きいタイヤを履く車は交換費用が高く、これは燃費とは別に毎回発生します。
燃費は維持費の一要素にすぎません。重量税、自動車税、任意保険、タイヤ代を合わせて考えてください。ファミリーカーの維持費で全体像を整理しています。
よくある質問
Q. 市街地モードの数値はどこに載っていますか?
各メーカーが公開している主要諸元表です。カタログの総合値のすぐ下に、市街地・郊外・高速道路の3つが並べて書かれています。ウェブサイトの車種紹介ページには総合値しか出ていないことが多いので、諸元表のPDFを開いてください。
Q. 実際の燃費は市街地モードの数値どおりになりますか?
なりません。エアコンの使用、乗車人数、荷物の量、渋滞の程度、運転の仕方で変わります。市街地モードは「同じ条件で比べたときの順位」を知るための数値だと考えてください。
Q. 同じ車種でグレードによって燃費が違うのはなぜですか?
駆動方式(2WDか4WD)、タイヤのサイズ、装備による車両重量の差が理由です。4WDは2WDより燃費が落ちます。購入するグレードの数値で確認してください。
Q. 送迎中心ならハイブリッド一択ですか?
燃料代だけを見ればそうなりますが、車両価格の差と走行距離次第です。年間5,000km程度なら差が出るまでに時間がかかります。試乗チェックリストで実車を確かめたうえで、総額で判断してください。
※本記事の燃費はトヨタ・日産・ホンダが公開している各車の主要諸元表に記載されたWLTCモードの国土交通省審査値です。グレードや年次改良で変わるため、購入前に最新のカタログでご確認ください。実際の燃費は使用環境や運転方法によって異なります。
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